どうも。南弘一です。千原台高校の校長をしています。とともに、地元熊本でサッカー解説の仕事もしています。
そして、もう一つ、力を入れている活動があります。それは、「LGBT教育」研究者としての講演活動です。この7月は、4つの団体からお招きいただいています。
そんな中、先日ある学校の生徒さんたちを対象に行った講演会の時のお話です。
その学校の生徒数は、約1200名。コロナ対策のために全員を体育館に集めることは出来ませんので、1年生のみが体育館に入り、2・3年生は教室でインターネットライブ中継を視聴するという形での講演会となりました。
演題は、「令和の時代 LGBTs人権課題とどう向き合うか」です。
「LGBT」のあとに「s」をつけてあることには意味があります。「LGBT」という言葉が、「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシャル」「トランスジェンダー」の頭文字をとってできていることは、現代ではかなり多くの方々に周知されてきました。しかし、性的マイノリティーの人たちの性がこの4つに集約できるわけではありません。
例えば、「性自認(心の性)が、男性でも女性でもない」という人たちのことを「Xジェンダー」と呼びますし、「性的指向(恋愛対象となる性)がない。つまり、人に対して『like』という感情はあっても『love』という感情はない」という人たちのをことを「Asexual(アセクシャルまたはエイセクシャル)」と呼びます。
このように、性的マイノリティーと言われる人たちは「LGBT」だけではなく、もっと多様性があるのですよという意味で「s」をつけるようにようにしています。
マスメディアでは、「LGBTQ」という表現も時々されていますが、この「Q」の意味は「Queer」「Questoning」という言葉の頭文字であり、用途は同じです。
さて、講演の中身は今のような話を含めての「LGBTsについての基礎知識」と「正しい知識をもとにして、どのように行動していくか」ということを考えてもらうような内容にしています。
その日も講演を終えて控室に戻り、招いていただいた学校の担当の先生とお話しをしていました。すると、ドアがノックされ、その学校の先生とともに一人の生徒がそこに立っていました。
「南先生とお話をしたいという生徒が来ているんですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。どうぞ。」
担当の先生は、
「私たちは外した方が良さそうですね。」
と状況を察して、席を外されました。
私と生徒二人になり、その生徒は
「実は、私も『当事者』というか、いつも生きづらさを感じながら生活しているので、今日の先生のお話に感動しました。あと、とても嬉しかったです。」
「そうですか。そう言ってもらえるととても嬉しいです。あと、ここまで会いに来てくれてありがとう。嬉しいです。」
生徒さんの表情には、悲壮感のようなものはなく、笑顔で話してくれています。
「このことを誰かに話すのは、これが初めてですか?」
「いいえ。仲の良い友達には、話したことがあります。でも、大人の人に話すのは初めてです。」
「そうなんですね。はじめて話す大人に私を選んでくれたわけだ。ありがとう。とても嬉しいです。」
「学校生活は、どうですか?何か困っていることはありませんか?」
「うーん。やっぱり、制服ですねー。この制服を毎日着なくちゃいけないことは、かなり苦痛です。海外の学校とか、私服で通える学校がいっぱいありますよね。」
「そうですよねー。日本の現状はそうではないし、それを変えていくためには、まだまだ時間がかかるという現実はありますよね。私が校長をしている千原台高校でも『男女の性を問わずに選べる制服』への変更を今進めていますが、実現できるのは令和5年度からという現状です。」
「ただ、ある学校では、生物学上は女子だけど性自認は男性なので、男子の制服を着たいということで、すでに男子の制服を着て登校しているという生徒もいますよ。先日、講演会のあとに一緒に撮った写真があります。本人の許可はとってありますので、見てください。」
と言って、私と男子の制服を着ている女子生徒が一緒に写っている笑顔のツーショット写真を見せました。この学校でも何とか対応したいけれど、すぐに、制服そのものを廃止したり、変更したりするのは難しいということで、この4月から校則を変更し、
「男子用の制服、女子用の制服のどちらを着用するかは、生徒・保護者の意志により決める。性別を問わず、いずれの制服を着用しても良い。」
としています。
「ただ、このような行動をとることは、少なくともクラスメイトや今までのあなたを知っている人たち皆への『カミングアウト』になるから難しいよね。」
「はい。うらやましいけど、今の自分にはちょっと無理かなあ。」
「うん。『カミングアウト』については、誰に対して、どのタイミングで行うかの決定権は、完全にあなたにあるので、そこは、よく考えて自分にとってベストの選択をしていってほしいと思います。」
「カミングアウトしなくても出来そうなことの例としては、例えば、生徒会の役員の人とかと一緒に『冬服からは、男女ともにズボンの着用を認める』(この学校の冬の制服は男女ともにブレイザーなので)という風に変えていく働きかけをしていく方法もあるんじゃないかな。」
「そうですね。何が出来そうか考えてみます。」
このような会話を20分ほど交わしたあとに、私の名刺を渡して、
「また、何か相談したいことがあったら、いつでも連絡してね。」
「ありがとうございます。」
と言って、その生徒さんは笑顔で控室をあとにしました。
はじめと最後は、素敵な笑顔でしたが、話している途中には、目が潤み、一筋の涙が流れる場面もありました。
このような涙がなくなる社会に一歩ずつでも近づいていくために、これからも講演活動を続けていきたいと思います。
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。私は今日も「熊本市PTA連絡協議会」が主催される「LGBT講演会」です。一生懸命に話をしてきます。
今日一日が皆さんにとっても素敵な一日でありますように。